○情報科学の棚

・犀川先生に学ぶ情報の知識


森 博嗣(1998)『すべてがFになる THE PERFECT INSIDER』講談社(講談社文庫)
14歳のとき両親殺害の罪に問われ、外界との交流を拒んで
孤島の研究施設に閉じこもった天才工学博士、真賀田四季。
教え子の西之園萌絵とともに、島を尋ねたN大学工学部助教授、犀川創平は
1週間、外部との交信を断っていた博士の部屋に入ろうとした。
その瞬間、進み出てきたのはウェディングドレスを着た女の死体。
そして、部屋に残されていたコンピュータのディスプレイに記されていたのは
「すべてがFになる」という意味不明の言葉だった。

…が教科書です。犀川先生に情報の知識を教えてもらいましょう。

p.40 l.1
「一番大切なことはね、とにかく出所の不明なフロッピィを入れないことだよ」
犀川は浜中に説明した。
「ゲームとか、絶対にもらってこないこと」


→情報元が分からない、ということは、中にどんな情報が入っているか分からない、ということ。
  ウイルスが仕込まれている可能性がある。
  無料で面白いフリーゲームは広まりやすい、という点から、ウイルスを仕込む方にとっては狙い目。
  というわけで、気をつけなさいという話ですね。

p.40 l.8
「あとはネットワークからソフトを持ってくるときだね、気をつけなくちゃいけないのは」
犀川はフロッピィを抜きながら振り向いた。
「できれば、何も持ってこないのが安全だ。
 ソフトは自分が本当に必要なものだけ買った方が良い


→ネットワークにあるから安全、というわけではない。気付かずに入ってしまっているかもしれない。
  あれこれ持ってきて入れてしまうと、どれに何が潜んでいるか分からない。
  お金を対価にする、ということは、それだけの保証がある、という意味。
  そういった保証のあるもののみにした方が安全、という話ですね。

p.41 l.5
「浜中君。
 院生室から4年生の部屋のマックに、最近フロッピィで何かファイルを移動しなかった?
 向こうもウイルスをチェックした方が良い」
「いえ…、UNIXを介してFTPしてますから、フロッピィは使いません。
 大丈夫だと思いますけど…」
浜中は答えた。


→UNIXとは、WinやMacが個人で使用されるのに対し、マルチユーザ・マルチタスクのOS。
  つまり、大勢のユーザが同時に利用できるようになっている。
  FTPというのは、File Transfer Protocolの略。
  インターネットを経由してファイルをダウンロードする際などに使われる。
  例えば、私はこのページをインターネットにアップロードする際に、FFFTPというフリーソフトを使用しています。

p.41 l.11
「あの…」
萌絵が尋ねる。
「ウイルスって、具体的にどんなものなのですか?
 もう消しちゃったんですか?
 見たかったなぁ…、私」
「見えるものじゃないよ」
犀川は萌絵の方を見た。
「それなりのソフトを使えば、発見はできるけどね。
 普通の方法で姿が見えるようにはなっていないし、
 こっそり何かのソフトかデータにくっつていたりする。
 ちゃんと機能するプログラムの内部に、初めからウイルスが隠されていることもある。
 いわゆる、トロイの木馬ってやつだけど…」


→これがウイルスだ!と顕微鏡を覗いて見えるようなものではない。
  たいていはつらつらと文字と数字が並んでいるだけ。
  その文字と数字がコンピュータに不正な命令を与える。
  そうした結果、面倒なことが起きる、ということ。
  トロイの木馬とは、他のプログラムに見せかけられているコンピュータウイルス。
  これは、実行したときに発病する。
  つまり、普通のソフトだと思って実行すると、隠れていたウイルスまで実行されてしまう。
  ……余談ですが、昔の(90年代前半頃?)ウイルスは面白い症状のものがあり、見えました。
  クリスマスまで潜伏して、当日が来たらディスプレイにツリーを表示させてフリーズしてしまうもの。
  バレンタインまで潜伏して、当日が来たらディスプレイにハートを表示させてフリーズしてしまうもの。
  ツリーやハートの表示が今のGIF動画のような動きをしていました。
  ああいったお茶目なウイルス(いや、強制終了が必要になり面倒でしたが)もう見かけませんね。

p.41 l.17
「どうやって退治するのですか?」
萌絵はきいた。
「ワクチンと呼ばれる対ウイルス用のプログラムがあるんだ。
 今、見つかったのは古いタイプのウイルスだったからね。
 ワクチンの守備範囲だったわけ」
犀川は立ち上がりながら言った。
「でも、ワクチンソフトよりも新しいウイルスだと、こうはいかないからね」


→ウイルスが見つかると、それを削除するプログラムを作成し、配信。
  それを受信してウイルスの侵入を防ぐ、というウェアがある。
  今では、トレンドマイクロのウイルスバスターが有名でしょうか。
  随時ファイルを更新して対処することが必要ですね。

p.42 l.4
「ウイルスって、実際には何をするんですか?」
浜中がきいた。
「いろいろだよ。
 何もしないで、ただメモリを占領するだけのものもあるし、
 ハードディスクの全部のファイルがやられることだってある。
 何もしないものほど発見が遅れるからね。
 そうそう…、潜伏期間といって、たいていは、しばらくは何もしない。
 すぐに症状が出ない方が、ウイルスには安全というわけだ。
 その潜伏期間の間に、他のマシンに感染する。
 人間の病気と同じだよ。
 すぐに酷い症状が出てしまうと、患者が隔離されてしまうだろう。
 そうすると、他の人間にうつるチャンスが少なくなる」


→悪さをしないうちは、ウイルスと認識されないので、駆除されることがない。
  その間に潜伏して広がっていく。そして、広まった後に動き出す。
  動きは、メモリを食うものから、ファイルを破壊するものまで様々。

p.42 l.11
「そんなことまで、考えて潜伏しているんですか?」
と浜中。
「さあね…。
 本物のウイルスはどうか知らないけど、少なくともコンピュータウイルスは人間がデザインしたものだからね。
 UNIXなんかになると、ファイル構成が複雑だし、ネットワークが世界中、常時つながっているから、
 ウイルスには天国みたいな環境なんだ。
 昔はパソコンのウイルスなんて、どうってことなかったんだよ。
 スイッチさえ切れば、パソコンは死んじゃうからね。
 死んでしまえばウイルスもアウトだ。
 でも、近頃のパソコンは、ハードディスクも目一杯あるし、ネットワークも完備してきたからね」


→コンピュータウイルスは、人間が、意図的に、被害をもたらす目的で作るもの。
  ファイル構成が複雑だと、どこにウイルスが潜伏しているのか探し出すのが大変。
  ネットワークにつながっているということは、伝染しやすい。
  上の方で書いた、昔のウイルスでも、強制終了さえしてしまえば、とりあえず発病は止まりました。
  現在のコンピュータでは、占領するハードディスクも、破壊するファイルも沢山ある。
  標的が大きくなったわけですね。

p.47 l.5
「UNIXの方でも、変なメールが来ています」
国枝が月餅を平らげてから言った。
「アメリカからのメールなんですけど、読んだだけでディレクトリのファイルが破壊されるという
 ウイルス付きのメールが届くかもしれないから、気をつけろという内容です」
「どうやって、気をつけるんですか?」
まだ月餅を半分も食べていない萌絵が横からきいた。
「警告のメールによると、サブジェクトがGODLESSとなっているそうなの」
国枝が答えた。
「だから、サブジェクトを見て、GODLESSとあったら絶対に読まずに、すぐデリートしろ、というわけ。
 誰かのディレクトリに侵入すると、まずアドレスリストを参照して、
 その人の関係者に勝手にメールを送りつけるそうですよ。
 そうやって、広がっていくとありました」


→I LOVE YOUというサブジェクトのウイルス付きメールが流行ったこともありましたっけ。
  メールにくっついてくるウイルスファイルを誤って開いてしまわないように気をつける。
  発信者名を確かめる、件名を日本語に指定しておく、迷惑メール対策をしておく、などで対処。






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