○心理学の棚

・知覚とは


感覚―――→知覚―――――→認知     
|_受容器――適刺激←→ 不適刺激   
   |       
   | 感覚モダリティ―― 通様相性現象   
   |       |___共感覚色聴
   順応――明順応      
   ||_暗順応      
   |        
   馴化        



知覚の恒常性   
    |――大きさの恒常性エンメルトの法則
    |――形の恒常性  
    |――明るさの恒常性  
    |――色の恒常性  
    |――速度の恒常性  
    |――音の大きさの恒常性  
    |__位置・方向の恒常性  
  知覚の体制化   
      |――近接の要因  
      |――類同の要因  
      |――閉合の要因  
      |――よい形の要因透明視,主観的輪郭線
      |――よい連続の要因  
      |――共通運命の要因  
      |――客観的態度の要因  
      |――残りの要因  
      |__経験の要因  



刺激頂
 ↑
 ↓
刺激閾
    弁別閾 
    |――ウェーバーの法則
    |――フェヒナーの法則
    |←―マグニチュード推定法
    |__べき法則
  マスキング――同時マスキング 
 |_継時マスキング 
     |――順向マスキング
     |__逆向マスキング



調節両眼輻輳両眼視差
  対比――明るさの対比
 |_色の対比



残効   
|―残像――陽性残像
 |_陰性残像
|―図形残効  
|_運動残効――うずまき残像
  |_落水の錯覚
  幾何学的錯視 
      |――対比錯視
      |――同化錯視
      |__角度方向錯視
  仮現運動――ファイ現象
 |―β運動,α運動,γ運動
 |_誘導運動,自動運動



文脈効果トップダウン処理
    ↑
    ↓
  ボトムアップ処理
  カクテルパーティ効果両耳分離聴
  ↑       ↑  
  フィルター説 減衰説  



感覚
感覚(sensation)。
知覚の過程。
感覚中枢のみに規定される過程。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、皮膚感覚、内臓感覚、運動感覚(自己受容感覚)、平衡感覚、内臓感覚などがある。


皮膚感覚
触覚、圧覚、温覚、冷覚、痛覚に分けられる。


深部感覚
運動感覚・深部痛覚を合わせて深部感覚と呼ぶ。


体性感覚
深部感覚と皮膚感覚とをまとめて体性感覚ということがある。


知覚
知覚(perception)。
感覚器官を通して自分を取り巻く外界の事物や出来事、あるいは自分の身体の状態を認知する機能。
大脳皮質の中枢において過去経験や思考などからの影響も受けて規定される過程。


認知
認知(cognition)。
知覚よりも過去経験や思考などからの影響をより多く受ける過程。
感覚や近くよりもより広い範囲にわたって多義的に用いられる語。


受容器
受容器(receptor)。
感覚器官において、直接刺激エネルギーを受け容れるもの。
それぞれの感覚器官は特定の刺激のみに対して選択的に働く。


適刺激
適刺激(adequate stimulus)。
感覚器官が選択的に働く特定の刺激。


不適刺激
不適刺激(inadequate stimulus)。
適刺激以外の刺激。不適刺激によっても感覚が生じることがある。


感覚モダリティ
感覚モダリティ(modality)、感覚様相。
感覚の種類とそれに即した体験内容。


通様相性現象
通様相性現象(inter-modality phenomenon)。
モダリティの異なる経験間に、共通の側面が認められること。


共感覚
共感覚(synesthesia)。
1つの感覚に違ったモダリティの感覚経験が同時に随伴する現象。
1つの刺激によって2つの感覚が同時に生じる。


色聴
色聴(color hearing)。
音を与えられた場合、音を聞く(聴覚)だけでなく、同時に色や光が見える(視覚)現象。


順応
順応(adaptation)。
感覚器官に一定の強度の刺激が持続して与えられると、その刺激に対する感受性が変化して生じる。
神経生理学的に考えてみると、感覚・知覚系などの神経細胞は、
刺激を受けるとそれに応答して電気信号をより上位の細胞に伝達する機能を有するが、
刺激が連続して与えられると、やがてその細胞は疲労し一時的に応答率が低下する、と説明される。


暗順応
暗順応(dark adaptation)。
網膜にある光受容器系の光刺激に対する応答の増加(あるいは感光からの回復)を意味する。


ニューラル・アダプテーション
連続刺激に対して検出細胞、あるいは細胞系が疲労して応答を低下させる過程。


馴化
馴化(habituation)。
生体に無意味な刺激(快も不快も生じさせない生体の生存に無関係な刺激)が繰り返し与えられると、
その刺激に対する反応が低下する。
この現象に特徴的なのは、刺激の差異に敏感なこと、通常の順応より持続すること、
連続的な刺激より断続的な刺激によって成立することなどが挙げられる。
この現象に関しては、神経細胞の疲労が原因ではなく、神経系の伝達効率の変化が原因であるとの指摘もあり、
一種の学習と考えられる。


○人が得る全情報量を100としたとき、視覚はその70%ほどを、聴覚はその20%ほどを担い、
他の感覚で残りの10%を担っていると云われ、人間の場合、視覚の果たす役割は極めて重要である。


視覚
視覚(visual sense)。
視覚の適当刺激は、光である。
人間の目には380nmから780nmまでの波長の光を見ることができる。
視覚の基本的属性は、色相・明度・彩度である。
色相は波長によって、明度は光の強度によって、彩度は光に含まれる部分光の数(光の純度)によって規定される。


可視スペクトル
人間が見ることのできる380nmから780nmまでの範囲の光を色彩順に並べたもの。


錐体
錐体(cone)。
網膜上の中心窩の付近に密集している視細胞。
色彩視、視力に優れる。


桿体
桿体(rod)。
網膜上の周辺部に多く分布している視細胞。
明るさに対して鋭敏である。


○明所視では、凝視して像を網膜の中心に結ばせると錐体の働きでよく見える。
暗所視では、凝視をするとよく見えず、かえって周辺視した方が桿体の働きでよく見える。


盲点
盲点(blind spot)。
網膜の内側の層は神経線維からなり、それらは網膜の1ヶ所に集合して太い神経線維の束となって、
中枢へと送られている。したがって網膜のこの部分には視細胞がないので、ものが見えない。


プルキンエ現象
プルキンエ現象(Purkinje's phenomenon。)
昼間は同程度の明るさに見えた赤い花と緑の葉が、
夕方薄暗くなると、緑の葉はまだかなり明るく見えるのに対し、赤い花のほうはずっと黒ずんで見える。
明所視の最大感度は555nm(黄緑)付近であるのに対し、暗所視の最大感度は510nm(青緑)付近である。
よって周囲が暗くなると短波長の方に最大視感度がずれる。


対比
強度の異なる2つの刺激が同時、あるいは継時的に提示されると、2つの刺激の差が強調されて感じられる。


明るさの対比
(例)物理的には同じ明るさである灰色の四角は、白を背景とする時には黒を背景とするときより暗く見える。


色の対比
一般に色のついた小部分は、それと異なる色を背景とするとき、背景の色の補色が加わって見える。
(例)灰色の小片を赤色の背景の上に置くと薄く緑色を帯び、同じものを青色の背景の上に置くと黄色味を帯びる。


マッハの帯
かなり明るい領域・薄暗い領域・両者を結ぶ中間領域が存在し、中間領域での明るさが徐々に変化していく場合、
それぞれの境界部位に明るい側にはより明るく、暗い側にはより暗く強調された帯が見える。


クレイク・オブライエン効果
境界線付近の明るさが異なるだけで、領域全体の明るさが異なるように感じられること。


聴覚
聴覚(auditory sensation)。
空気の分子の粗密波によってできる波(音波)が聴覚器官を刺激して生ずる感覚。
聴覚の属性には、音の大きさ・音の高さ・音色・調性・明るさなどがある。
音の大きさは音の強さ(音圧)によって、音の高さは音の周波数(振動数)によって、
音色は音の波形によって規定される。
音波は外耳を通って鼓膜を振動させ、中耳の耳小骨を経て内耳に伝えられる。
内耳には蝸の殻のように渦巻いている蝸牛があり、この中にある基底膜にその振動が伝えられると、
そこで電気的信号に変換され、聴神経によって大脳に送られて、聴覚が生じる。
一般に、20Hzから20000Hzまでの10オクターブにわたる範囲の高さの音を聞くことができる。
しかし年齢が高くなると高域の音が聞こえにくくなる。
また、音の大きさとしては120dBくらいまでの音を聞くことができる。
それ以上の大きさの音に対しては痛覚が生じ、鼓膜が破損する。


嗅覚
嗅覚(olfactory sensation)。
人間か感じることの出来る臭いの大部分は有機化合物である。
嗅覚の受容器は、鼻の奥にある嗅上皮である。
この嗅上皮中にある何百万もの嗅細胞が、気体分子を神経インパルスに変換する。
嗅覚は、人にとってかなり重要ではあるが、動物に比べれば重要性は一般に小さいようである。
人の嗅覚はイヌなどの動物に比較すると桁違いに鈍感であるが、しかしそれでもかなり鋭敏である。
嗅覚は、速度は遅いが非常に順応しやすい。
また2種類以上の異なる臭いが存在する場合には、それらを合成して知覚する融合現象も生じる。


臭いのプリズム
臭いのプリズム(ordor prism)。
基本的な6つの臭いを頂点に置くモデル。


味覚
味覚(gustatory sensation)。
味覚も嗅覚と同様に、化学物質を刺激として生じる。
味覚は主に舌の表面に分布する味蕾と呼ばれる多数の受容器によって生じる。
味覚には基本的な4つの味があるといわれ、甘い・塩辛い・酸っぱい・苦い、に分けられる。
甘さは舌の先端、酸っぱさは舌の両側、苦さは舌の根元、塩辛さは舌一様で主に感じられる。


味の四面体
味の四面体(taste tetrahedorn)。
4つの味の関係をそれぞれが頂点をなす四面体に表したもの。


○味覚と嗅覚はともに食物の摂取に欠かせない要因となっている。
いずれか一方が働かないときには、食欲が落ちたり、誤って腐敗物を食べてしまうことがある。


皮膚感覚
皮膚感覚(cutaneous sensation)。
皮膚感覚はさらに圧(触)覚、痛覚、温覚、冷覚に分けられる。
それらの感覚は、皮膚上の圧点、痛点、温点、冷点とよばれる感覚点(受容器)を刺激することによって生じる。
感覚点の分布は感覚の種類と身体の部位によって異なる。
圧覚の程度の小さいものを触覚と呼ぶ。
痛覚は、順応が小さく、生物学的に一種の危険信号の意味を持つ。
このことは、生命を維持するのに役立つ。


触二点閾
皮膚上の2点を同時に刺激する時、2点間の距離が小さいと2点と感じない。
2点を2点と気付き始めたときの距離。
身体の各部位でその大きさは異なっている。


矛盾冷覚
矛盾冷覚(paradoxical cold)。
冷点は43度以上の温刺激にも反応し、冷覚を生じさせる。


刺激閾
刺激閾(stimulus threshold)、絶対閾(absolute threshold)。
感覚が生じるための最小限の刺激強度。
感覚が生じるか生じないかのぎりぎりの物理的な刺激の強度。
感覚が生じる場合と生じない場合が統計的に50%になるときの物理的刺激強度。
光の場合は約10光量子(月のない晴れた夜、約48km(30マイル)遠方にある蝋燭の炎の明るさ)であり、
音の場合は約0.0002dynes/m^2(静かな部屋で、約6m(20フィート)離れた時計の秒針の音)。


刺激頂
刺激頂(terminal threshold)。
刺激の強度が強すぎて、それ以上強くすると正常な感覚が生じなくなったり、
感覚の大きさがそれ以上変化しなくなるような、刺激の強さの限界。


弁別閾
弁別閾(difference threshold, differential limen=DL)、丁度可知差異(jnd: just noticeable difference)。
刺激強度に関して、2つの刺激を区別できる最小の刺激差。
弁別閾は一定の値をとるわけではなく、その比較の基準となる刺激(標準刺激)の強度が大きくなると、
弁別閾も増大する。


ウェーバーの法則
ウェーバーの法則(Weber's law)。
弁別閾(僮)の値は、標準刺激(I)の強度に比例する。
つまり、その比は、ほぼ一定の値(僮/I=C(一定))をとる。
この比は、ウェーバー比(Weber ratio)と呼ばれる。


フェヒナーの法則
フェヒナーの法則(Fechner's law)。
感覚(R)を量的に扱うことができるとみなし、
弁別閾(儡)に相当する感覚の増加量(儚)は一定であると仮定して、
感覚(R)は刺激強度(S)の対数に比例して変化する、という結論を導いた。
R=k・logS(kは定数)


マグニチュード推定法
マグニチュード推定法(magnitude estimation)。
感覚あるいは感覚の大きさを直接測ることができないと、フェヒナーの法則を実験的に吟味することは困難であるため、
スティーブンス(Stevens, 1957)が考案した方法。
感覚の大きさを観察者(被験者)自身に判断させて、数量的に表現させる。
基準となる刺激を提示して、これを10としたとき、提示する刺激がどれくらいかを数値で答えさせる。


べき法則
べき法則(power function)。
マグニチュード測定法を用いた多くの研究により、刺激強度(S)と被験者が答えた数値(心理量、R)との間には、
R=k・S^n(kは定数)
と表される関係が成り立つことが見出された。


残効
残効(aftereffect)。
刺激消失後に生じる感覚・知覚上の変化。
残効は視覚に限らず、触覚や聴覚、平衡感覚にも見られる。
さらに運動系での残効現象も知られている。
残効の多くは、神経系の順応によって生じるといわれる。


残像
残像(afterimage)。
強い光刺激を見た後では、その光刺激がなくなっても、刺激された網膜部分に像が残って見える現象。
原刺激の像が明暗・色相の違いはあれ刺激消失後も視野内にとどまる現象。
色光の残像は特に色残効と呼ばれる。
陽性残像と陰性残像がある。


陽性残像
刺激光の色と同じ色の像が、消失直後、短時間出現する。
現刺激と明暗が一致している残像。


陰性残像
刺激光の補色関係の色の像が陽性残像の後に出現する。
現刺激と明暗が逆の像。


エンメルトの法則
エンメルトの法則(Emmert's law)。
残像の見えの大きさに関する法則。
この法則によれば、残像の見えの大きさは、残像が投影される面までの距離に比例する。
ただし、投影面までの物理的な距離ばかりでなく、見えの距離も影響を及ぼすといわれている。


図形残効
図形残効(figural aftereffect)。
一つの図形を暫く凝視した後に、別の図形に目を向けると、
その図形を単独で見た場合と比較して、異なって知覚される。


空間周波数移動
空間周波数(spatial frequency)移動。
ある空間周波数パターンを暫く観察した後、別のテスト刺激を眺めると、空間周波数がシフトして知覚される。


運動残効
運動残効(motion aftereffect)。
同じ方向への運動を長い時間観察した後で静止したものを見ると、逆方向への運動が観察されること。
一定方向に運動するパターンを暫く注視した後に静止パターンを眺めると、
物理的には静止しているのに、先とは逆方向へ動いて見える。
(例)うずまき模様の円盤を回転させて、これを見ると、回転方向に応じて拡がったり縮んだりする運動が見られる。
   これをしばらく見てから急に円盤を停止させると、今度は逆方向への拡大縮小運動が観察される(うずまき残像)。
(例)滝の落下を暫く見つめてから、他の景色に視線を移すと、
   静止した対象が上の方に運動するように見える(落水の錯覚)。


マスキング
マスキング(masking)。
ある刺激の存在が、他の刺激に妨害効果を持つ現象。
マスキングは、視覚・聴覚・触覚などの感覚において生じるが、聴覚の場合がよく知られている。


聴覚マスキング
聴覚マスキング(auditory masking)。
1つの音の存在が他の音を聞こえにくくする現象。


最小可聴値
最小可聴値(threshold of hearing)。
音の強度に対する刺激閾。


マスキング曲線
マスキング曲線(masking curve)。
1200Hz,80dBのA音(マスクする音)を出し、その周波数と強さとを一定に保ったままにして、
B音(マスクされる音)の周波数と強さをいろいろに変化させた時に、描き出された曲線。


うなり
うなり(beat)。
音が周期的に強くなったり弱くなって聞こえる現象。


白色雑音
白色雑音(white noise)。
あらゆる周波数成分を含む白色雑音は、あらゆる周波数の純音をマスクすることになるので、
純音同士のマスキングの場合と異なり、マスクされる純音の周波数に関わらずほぼ一様にマスキングが生じる。


同時マスキング
同時マスキング(simultaneous masking)。
マスクする音とマスクされる音とを同時に提示した場合に生じるマスキング。


継時マスキング
継時マスキング(temporal masking)。
マスクする音とマスクされる音とを継時的に提示した場合に生じるマスキング。
順向マスキングと逆向マスキングがある。


順向マスキング
マスクする音(A)をマスクされる音(B)よりも先行して提示する(A→Bの順)。


逆向マスキング
マスクする音をマスクされる音に音に後続させて提示する(B→Aの順)。
時間をさかのぼって先行する音をマスクする。


○順向マスキングの方が、時間的に離れた音に対してもマスキングが起こる。
逆向マスキングの方が、マスクする音とされる音が接近している場合には、マスキング量が大きい。


遠刺激
ある対象を見ているときの、外界にある対象そのもの。


近刺激
ある対象を見ているときの、その対象によってもたらされる網膜上に投影された刺激。


○近刺激やその他の情報をもとに、遠刺激を知覚していると考えられる。


知覚の恒常性
知覚の恒常性(perceptual constancy)、恒常現象(constancy phenomena)。
感覚器官に与えられる刺激の特性の変化にも関わらず、知覚される特性は比較的恒常を保つこと。
ある対象が提示されている距離や方向、照明の強度などが変化することによって、近刺激が大きく変化しても、
対象の大きさ、形、明るさ、色などはあまり変化せず比較的安定して知覚される傾向。
それぞれ、大きさの恒常性、形の恒常性、明るさの恒常性、色の恒常性などと呼ばれる。
知覚の恒常性によって、より安定した知覚世界をもち、事物の同一性の認知を行っている。


大きさの恒常性
大きさの恒常性(size constancy)。
観察距離の変化により網膜像の大きさが変化するにも関わらず、見えの大きさが比較的恒常を保つ現象。
対象までの距離が変化すると対象の網膜像の大きさ(視角)は、距離に反比例して増減するが、
知覚される大きさの変化は、視角の変化よりもゆるやかで知覚される大きさは比較的一定を保つ。


エンメルトの法則
エンメルトの法則(Emmert's law)。
網膜像の大きさ(視角)が一定であれば、遠くに定位されるものほど大きく見え、
近くに感じられるものほど小さく見えるという傾向。
大きさ・距離不変仮説として定式化される。


大きさ・距離不変仮説
大きさ・距離不変仮説(size-distance invariant hypothesis)。
S'=θ・D(S':対象の見かけの大きさ、θ:視角、D:距離)
対象の視角θは一定であるから、Dが増大すれば、S'は当然増大するという比例関係が成り立つ。
同一対象が近くにある(Dが小さい)ときは、視角θは大きくなり、
逆に、遠くにある(Dが大きい)ときは、視角θは小さくなり、
いずれの場合も、見かけの大きさS'は変化しない。


形の恒常性
形の恒常性(shape constancy)。
視線に対する対象の傾きが変化することにより、網膜像の形が変化するにも関わらず、
見えの形が比較的恒常を保つ現象。
物の位置や傾きによって網膜像が異なっていても、真正面から見たときの形に近づいて見えること。


明るさの恒常性
明るさの恒常性(brightness constancy)。
照度の変化により網膜強度が変化するにも関わらず、見えの明るさが比較的恒常を保つ現象。
物体の明るさが、一定不変なものとして知覚されること。


色の恒常性
色の恒常性(color constancy)。
照明色の変化にも関わらず、対象の見えの色相が比較的恒常を保つ現象。
照明の分光分布が変化しても物体の色の知覚が一定に保たれる現象。


速度の恒常性
速度の恒常性(constancy of apparent speed)。
観察距離の変化により対象の運動の角速度が変化するにも関わらず、見えの速さが比較的恒常を保つ現象。


音の大きさの恒常性
音の大きさの恒常性(loudness constancy)。
音源と自己との距離の変化による刺激強度の変化にも関わらず、音の大きさが比較的恒常を保つ現象。


位置・方向の恒常性
位置・方向の恒常性(position or orientation constancy)。
眼または身体を動かすときに網膜上の像が移動するにも関わらず、外界は依然として静止し、
一定の方向に知覚される現象。


恒常度指数
恒常度指数(index of perceptual constancy)。
恒常性の程度を表す指標。
ザウレスのZ指数、ブルンスウィックのR指数。


○知覚的手がかりが豊富に存在し、距離・方向・照明などの対象に関する情報が明確なほど、恒常度は高く、
知覚的手がかりが少ないほど、恒常度は低い。


月の錯視
月が地平線近くにあるときは大きく見え、中天に来ると小さく見える現象。
この現象を説明する多くの仮説がこれまでに提出されている中の有力な仮説の1つは、
誤った奥行きの情報が付加されるためだとする。
つまり水平距離の方が中天の天頂までの距離よりも過大視され、
そのため上述の距離によるスケーリングのメカニズムにこの過大評価された距離がインプットされたと考える。
また、I.ロックらは、地平方向では肌理の勾配が明確である為に、
地平方向の見えの距離は天頂方向のそれよりも大きく、
大きさと距離の不変関係によって地平方向の月はより大きく見えると説明した。


群化
視知覚系の働きによって、視野内のいくつかの分離した領域としての図は、バラバラのものとしてではなく、
まとまりをもったもの、体制化されたものとして知覚される。


ゲシュタルト要因
まとまりや群化を決定する要因。
近接の要因…他の条件が一定ならば、近い距離にあるものがまとまって見える。
         近い距離にあるものが相互にまとまりを作る。
類同の要因…他の条件が一定ならば、同種のもの、あるいは類似のものがまとまって見える。
         同じ、または類似した性質をもつものがまとまる。
         これを利用したものとして石原式色覚検査表がある。
         さまざまな色の斑点が、正常色覚者と色覚異常者では、異なったパターンにまとめられる。
閉合の要因…互いに閉じあうものは、閉じあわないものよりもまとまる傾向がある。
         閉合の傾向を持つ部分は互いにまとまる。
よい形の要因…規則的な、左右相称的な、あるいは同じ幅をもつような形がまとまる傾向がある。
          形として見られる場合には、単純で安定した規則的な形が成立するようにまとまる。
よい連続の要因…よい連続、なめらかな経過を示すものがまとまる。
           連続した線として見ることができる場合には、
           できる限りよい連続、滑らかな連続となるようなまとまりを形成する。
共通運命の要因…運命をともにするもの、すなわちともに動くものは一つにまとまる傾向がある。
            周囲が動いているときは、ともに止まるものもまとまる傾向がある。
            同じような動きをするものはまとまる。
客観的態度の要因…いくつかの刺激系列が継時的に示される場合、
             単独に提示されると一義的なまとまりを生じないような刺激配置が、
             ある経過の中では一定のまとまりを生ずる傾向がある。
・残りの要因…あるまとまりをすると、残りが生ずるが、他のまとまりでは残りが生じない場合には、
         残りを生じないようにまとまる傾向がある。
・経験の要因…あるまとまりを何回も経験すると、それが後に他のものと一緒にあるとき、
         まとまって現れる傾向がある。
         この要因は、上述の諸要因のいずれかとともに働く時、最も効果的であるが、
         他の要因と対抗するときは非常に弱い。


透明視
2つの形が重なり、重なっている部分では下にあるものが透けて見えるように感じられる。
より「よい形」を見ることができるために生じる。


主観的輪郭線
実際の境界線が存在しなくても、輪郭線が現れ、その内部が図として機能することがある。
「よい形」を成立させるために現れる。


プレグナンツの法則
プレグナンツの法則(Pragnanzgesetz)。
与えられた条件の許す限り、できるだけ全体を簡潔な良い形に向かう傾向が存在すること。


幾何学的錯視
大きさ・距離・方向・形などの幾何学的関係が実際と異なって見える一群の視覚現象。


対比錯視
同じ大きさのものが、それより大きなものと隣接するときは、小さなものと隣接するときよりも小さく見える。


同化錯視
同じ大きさのものが、それとわずかに異なる大きさのものに隣接するときは、それと似て見える。


角度方向錯視
線が他の線と交差すると、その方向がずれて見える。
普通、鋭角は過大視、鈍角は過小視の方向にずれる。


調節
調節(accommodation)。
近い物を見ようとする時、毛様体筋が収縮し、水晶体を引っ張っている毛様体小帯が弛緩して、
水晶体の曲率が増大する。
対象までの距離の変化に応じて生ずるこのような働きのこと。


両眼輻輳
両眼輻輳(binocular convergence)。
両眼で無限遠を見るときは、左右の眼の視線は平行になるが、
近くの対象を見る時は、眼球は内側に回転し、視線は対象上に輻輳する。


両眼視差
両眼視差(binocular parallax)。
両眼は水平方向に約6cm余り離れて位置するため、両眼にうつる像に差ができる。
1つの対象を両目で見たとき、左右の眼にはわずかにズレた網膜像が写っている。
このズレを両眼視差と呼ぶ。
観察距離の2乗に逆比例する。


運動視差
運動視差(motion parallax)。
観察者あるいは対象が運動するときに生じる時間的な視差。
特定の対象に対する視方向が刻々に変化し、同一対象に対し時間的な視差が生じる。
遠近対象間の角速度の差。
遠距離および近距離にある2つの対象が等しい速度で同方向に動くとき、その角速度は観察距離に逆比例する。
対象が静止し、観察者が移動するときにも事情は同様である。
(例)電車などに乗って窓の外を見ていると、景色は進行方向と反対の方向に流れて行くが、
   このとき近くの景色ほど早く移動する。


運動視
視野の中で、対象が刻々とその位置を変化させている、と知覚すること。
実際運動の観察において生じるのが普通であるが、仮現運動についても生じる場合があり、
運動視が行われるには一定の条件が必要である。


仮現運動
仮現運動(apparent movement)。
客観的には動いていない対象が、見かけ上、運動して見える現象。
空間的に離れた2つの図形を一定の時間間隔をおいて提示すると、
2つの図形をつなぐような連続した運動が知覚される現象。
離散的な変化を示す刺激によって連続的な運動感が知覚される現象。
広義の仮現運動には、運動残効による運動知覚や、誘導運動現象、自動運動現象などを含む場合もある。
また、狭義の仮現運動(β運動)は視覚に限らず、触覚や聴覚でも認められている。


ファイ現象
ファイ現象(phi-phenomenon)。
時間間隔が60ms程度であると生じる、なめらかな仮現運動。
刺激がある場所に一定時間呈示されてから消え、適当な時間間隔を置いて別の場所に呈示されると、
観察者は一方の刺激から他方の刺激に向かう明瞭な運動を知覚する。
ファイ現象は、2刺激の形が異なっていても観察される。
また、単純な直線運動ばかりではなく、刺激の布置によっては、迂回・回転などの運動も観察される。
(例)夜間、交互に点滅する踏切の赤いランプを見ると、1つのライトが往復運動をしているかのように見える。


コルテの法則(Korte's law)
ファイ現象が生じるには、ある範囲内での提示時間間隔(g)、空間感覚(s)、刺激強度(i)の関係は、
(1)gが一定のとき、s/iは一定でなければならない。
(2)sが一定のとき、s*iは一定でなければならない。
(3)iが一定のとき、s/gは一定でなければならない。
ただし、この法則は一般的傾向であって、実際には、視覚系がコルテの法則に厳密に従っているとはいえない。


β運動
β運動(β-movement)、キネマ運動(kinematic movement)。
わずかに隔たった2つの位置に刺激を瞬間的に継起させると、時空間条件が適当であれば、
この継時交代の事象が、第1刺激から第2刺激への運動として知覚されること。
(例)1列に並んだネオン管が適当な時間間隔をおいて次々に点滅すると、
   いかにも一つの光が実際に走っていくように見える。
条件さえ適当であれば、光の点滅という状態の移動を1個の光源の実際の移動という形で知覚する。
光の持続時間・光間の距離・光度・点滅の瞬時性などの要因によって最適な運動の見えは変化する。


α運動
錯視効果に基づくサイズの伸縮運動。
(例)一つのミューラー・リエルの錯視図において、内向きと外向きの翼を、
   適当な時間間隔を置いて同じ場所に点滅させると、主線の長さが伸縮して見える運動。


γ運動
視野の瞬間点滅に伴う膨張・収縮効果。
刺激を短時間露出するとき、出現にあたっては伸張するように見え、消えるときには収縮するように見える運動。
(例)消燈のとき光は視野周辺から中心に集まり、点燈のときは周辺に拡散するように感じられる。


誘導運動
誘導運動(induced movement)。
周囲の動きに誘発されて、実際に静止している対象の方が動き出す現象。
一般に、囲まれたという関係にある方、小さい方、注視された方、日常よく動きを経験される方などが、起こしやすい。
自己受容感覚としての運動の錯覚である。
相対的な運動が生じている場面で、空間的枠組みの役割を担う方が、実際は運動しているのにも関わらず、
静止して見えることにより生じる。
(例)実際には雲が動いているにも関わらず、時には月が動き雲は静止すると知覚される。
視野内の安定した対象は、視覚的枠組となり、運動はその枠組との相対的関係によって把握される。
視覚的枠組になっているものが運動した場合には、
それ以外の実際には静止している対象の方が動いているように感じられる。


自動運動
自動運動(autokinetic movement)。
暗闇の中のように視覚的枠組み(参照枠)が失われた状態で、静止光点が不規則に運動して見える現象。
(例)完全な暗室の中で、小さな光点を見つめると、
   光点は何ら実際には動かないのに、それが滑らかに動き出して見える。
   その軌跡を観察後に画いてもらうこともできる。


実際運動
実際運動(real movement)。
客観的に移動する対象の知覚において経験される運動。
実際に運動するものが、動いていると感じられること。
連続的変化を示す刺激によって生じる運動知覚。


文脈効果
文脈効果(context effect)。
前後の刺激の影響を受けて判断対象の刺激についての知覚が変化する現象。
トップダウン処理によって生じるものと考えられている。


知覚的修復
知覚的修復(perceptual restoration)。
期待に沿って実際には刺激の中に存在しない音が、知覚的に合成されること。
このような効果は、置き換わった音が除去された音をマスクしたとみなしうるような刺激条件にのみ起こる。


トップダウン処理
トップダウン処理(top-down processing)、概念駆動型処理(concept-driven processing)。
感覚情報に基づいた提示レベルの処理を行う前に、文脈による期待や知覚の構え(set)が作られて、
その期待や構えに即したデータを捜して処理する様式。


ボトムアップ処理
ボトムアップ処理(bottom-up processing)、データ駆動型処理(data-driven processing)。
低次レベルでの感覚情報に基づいた部分処理がまず行われ、より高次なレベルへと処理が進んでいく様式。


○トップダウン処理とボトムアップ処理はどちらかだけが行われるというよりも、
たいていの場合、両方とも行われる。
すなわち、何かを知覚する時、前もってそれが何であるかについての知識を持つと同時に、
入力データの処理を次々と行い、最終的に対象が何であるかを知覚する。
この両方の処理が知覚に一定の貢献をすると考えられる。


語の優位効果
語の優位効果(word-superiority effect)。
1つ1つの文字は、特定の語の部分として提示されるときの方が、
非語(語ではない文字の繋がり)の一部分であったり、単独提示されるときよりも、認知されやすくなる。
語の優位効果は、文字の認知に語の内的文脈の影響が働いていることを示している。


カクテルパーティ効果
カクテルパーティ効果(cocktail party effect)、カクテルパーティ現象。
多数の音源を空間的に別々に聞き分けて、特定の人と話のできる現象。
カクテルパーティ効果がなぜ生じるのかについては、ほとんど分かっていない。
カクテルパーティ効果は自分が注目したい音響パターンを捉え、
さらにそのパターンのみに注目する高次中枢の働きによって生じると考えられる。


選択的注意
選択的注意(selective attention)。
感覚器官に多くの情報が入ってくるときに、選択的にどれかの刺激に注意を集中すること。


両耳分離聴
両耳分離聴(dichotic listening)。
左右の耳に別々の情報を等しい大きさで同時に提示する方法。


フィルター説
フィルター説(filter theory)。
Broadbent, D.E.は、カクテルパーティ効果をフィルター説によって説明しようとした。
処理機構の入り口付近に複数のフィルターが存在し、情報の内容によってではなく物理的特性によって、
そのうちのあるフィルターだけが選択されて聞かれ、そのフィルターを通過した情報のみが処理されるとする説。
したがって、注意を向けていない対象に対しては何も知ることができないことになる。
ただし、チャンネルを切り換えることにより注意を向けていない対象についての情報も
ある程度は得ることができる。


減衰説
減衰説(attenuator theory)。
Treisman, A.M.は、注意を向けていない耳からの情報もある程度の処理がなされると考え、
Broadbent, D.E.のフィルター説を修正し、減衰説を提案した。
例えば、自分の名前などのように関心のある情報の場合には、たとえ減衰して伝えられても
ある程度の分析が行われると説明した。


○ブロードベントの考えたフィルター説では、
どれか1つの回路が選択されることにより、一度に1つのものしか通過できなかったが、
トレイスマンの減衰説では、
同時に多くの情報が伝えられると、注意を向けていないものは減衰させられるが全く通過できないわけではないから、
もしそれが重要であれば時には発見され受け容れられる。
したがって、注意の機構は初期の段階に存在すると考えられる。


失認症
刺激はきちんと見えているのに、それが何であるかがわからない状態。
知覚された事物が意味を喚起しない点に特徴があるので、意味を喪失した知覚とも呼ばれる。


参考:重野 純(1994)『キーワードコレクション 心理学』新曜社(キーワードコレクション)
   鹿取 廣人・杉本 敏夫(1996)『心理学』東京大学出版会
   東 洋・大山 正・詫摩 武俊・藤永 保(昭和45)『心理学の基礎知識』有斐閣
   田島 信元(1989)『心理学キーワード』有斐閣(有斐閣双書KEYWORD SERIES)






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