○心理学の棚
・言語とは
外言
外言(external speech)。
他者とのコミュニケーションの道具。
意志伝達の道具として言語を使用して個体間コミュニケーションを行う。
内言
内言(inner speech)。
思考の道具。
外的な発声を伴わない内面化された言語活動。
完成された内言は圧縮された構造を持っている。
内言の述語的機能は圧縮された構造の中でも充分に保持されている。
内言では話し手と聞き手が同じであるため、
問題の所在や直面している課題について特に表示する必要はないが、
何を実行すべきか、行為をどの方向に向けるべきかは必ず含まれている。
個体内コミュニケーションを行うことによって、
自己の行動の意図的な制御・調整(自己調整機能)を行うことができるようになる。
ひとりごと
内言の分化は幼児期に始まるが、分化が不十分な段階では思考に外的な発声が伴ってしまう。
ことばを使って思考を始めると増加するが、思考の内面化が進行すると減少する。
内言の完全な内面化は、年齢ばかりでなく課題の困難度にも依存する。
思考が内面化して内言が形成されていく過程では、ひとりごとの出現頻度が減少するばかりでなく、
語の省略や構文の単純化といった発話の内容の変化も同時に進行する。
等価反応
同じ種類の対象は同じカテゴリないし枠に入れられるが、
異なる対象であってもある共通の側面に注目して同じ枠に入れて捉え、
いわば同じ対象であるかのように同一視して反応すること。
カテゴリー
カテゴリー(category)。
周りの自然事物の概念。
明確(explicit)には定義のできないものが少なくない。
概念
周囲の事物を時々刻々に変化する感覚属性の束として捉えるのではなく、
個々の属性のうちの共通な側面(内包)をまとめて捉える働き、すなわち抽象化の働き。
概念は、他の概念と相互関係を持ちつつ、自ずからそれが適用される範囲(外延)を持つと同時に、
上位の概念が下位の概念を包括する階層構造を持っている。
概念形成
概念形成(concept formation)。
概念そのものが全く不明な状態で概念が作り上げられる場合。
世の中に存在しているものを何らかの基準の下でカテゴリーに分類すること。
カテゴリー化という情報の体制化システムを用いることは、
異なった情報内に存在する共通性を認知し、情報のオーバー・フローを防ぎ、
あるいは入力情報に関する付加情報の演繹的推論を可能にする。
カテゴリー化は認知システムの重要な機能であり、記憶や推論、問題解決、言語などに不可欠のものである。
概念達成
概念について手がかりとなる属性を予め知識として与えておいて、
推理によって隠された概念に到達する場合。
○外界の情報を記憶の過程で貯蔵するためには、何らかの心的操作が加えられて、
後に利用しやすい内部表現の形式である符合に置き換えることが必要である。
符合
視覚的な属性、音声としての聴覚的な属性、意味的な属性を持った型など幾つかの型がある。
符号化
記憶への貯蔵の為に、情報を上記のいずれかの型に当てはめること。
イメージ(心像)
刺激対象が存在しないにも関わらず、それが存在した時と類似した知覚体験。
○言語符合とイメージ符合について行われた実験では、一連の単語を記憶させる時、
イメージを使うように教示すると、言葉だけの記憶に比べて再生の成績が良くなった。
二重符合説
人の知識は言語符合とイメージ符合の2種類の形式で符号化されて記憶される。
○インクの染みのでたらめな集まりのような絵は、絵の意味を知らなければ再生は良くないが、
隠れたイヌの存在に気付けば記憶が向上する。
命題符合説
命題としての意味の記憶を強調する。
表象
表象(representation)。
異なった種類のカテゴリーが、記憶内に持つそれぞれ異なったもの。
カテゴリーの潜在的な(implicit)定義として、記憶内に貯蔵される。
表象には、列挙型と特性型がある。
列挙型
最も単純なカテゴリー表象。
カテゴリーが個々のインスタンス(カテゴリー内の成分)で定義されたもの。
無限にインスタンスがあり、実際には列挙できない場合は、
同時に規則(生成スキーマ)を学習する必要がある。
特性型
知覚的形態や機能、関係などによって定義されるカテゴリー。
カテゴリーが機能的に定義される場合、機能スキーマのようなものがあり、
カテゴリーのインスタンスがどのように用いられるものか、
どのような目標を達成するものか、などを記憶内で表現している。
典型性理論
典型性理論(typicality theory)、インスタンス理論。
カテゴリーの中で典型的なインスタンスがカテゴリー表象となるというもの。
プロトタイプ理論
プロトタイプ理論(prototype theory)。
カテゴリーの表象となるのは、具体的なインスタンスではなく、
カテゴリー・インスタンスのいわば抽象的な合成物、融合体としてのプロトタイプであるというもの。
失語症
失語症(aphasia)。
音声言語に関係した末梢の受容器や発声器官が健全であり、知能や意識の障害も見られないのに、
言語を正しく使用したり理解することができなくなる場合を言う。
これは、言語が単にコミュニケーションの為の道具ではなく、思考あるいは認識機能を反映していることを示す。
運動性失語症
舌や口は自由に動き、声も自由に出せるが、話そうとするとことばがどうしても出てこない。
ブローカ野に損傷。
ブローカ野
ブローカ野(Broca's area)、運動性言語中枢。
左耳の真横の少し上の領域(大脳皮質左半球の前頭葉下前頭回の後方部)。
言語の表出に必要な筋肉の働きを統合する中枢。
感覚性失語
自由に話せるが話の内容が不自然であり、耳もよく聞こえるが話を聞き取る能力が低い。
ウェルニッケ野に損傷。
ウェルニッケ野
ウェルニッケ野(Wernicke's area)、感覚性言語中枢。
左半球の上側頭回と中側頭回の後方部。
○耳に入った音声信号は、
「聴覚連合野→ウェルニッケの言語野(内容を理解し、答えを準備する)→
→ブローカの言語野(文法的に正しい文章を組み立てる)→筋肉の運動プログラム→
→発話」の過程をたどるものと考えられている。
○ペンフィールド(Penfield, W. G.)らが中心となって、
てんかんの治療のため局所麻酔をして電極を脳の色々な部位に入れて調べた結果、
左半球に3つの言語野の存在が認められた。
(1)前言語野(ブローカの言語野と一致)
(2)後言語野(ウェルニッケの言語野を拡大したかたち)
(3)上言語野(ペンフィールドらにより始めて設定された部位で、補足運動野に相当する)
○言語野は、言語の生成・発話に重要な役割を担っているが、
言語野以外の部位に損傷があって失語症になる場合や、
逆に言語野内の損傷でも失語症にならない場合もあることが報告されている。
言語心理学
言語心理学(psychology of language)。
主な研究対象は、個人の言語的表現や一般的言語活動、言語の以上などであった。
心理言語学
心理言語学(psycholinguistics)。
言語心理学を含めた領域として誕生。
言語行動の心理学的側面と、思考や認識形成における言語の役割を切り離さない点を特徴とする。
個人の言語活動と関係させて、言語およびコミュニケーションを研究することを目的とする。
言語学と心理学の融合する境界領域に位置するもの。
言語行動の心理学的側面と、思考や認識形成に関わる言語およびコミュニケーションの側面とを切り離すことなく、
心理学・言語学を融合して実証的研究を行う学問であり、
心理学と言語学が相互に寄与するばかりでなく、
他の諸科学(社会学、生理学など)における知見を取り入れて今後発展していく分野。
言語相対性仮説
言語相対性仮説(linguistic relativity hypothesis)、サピア-ホワーフ仮説。
言語体系によって認識の体系が形作られていくとする考え方。
周囲の現象を認知するとき、その民族の言語体系のもつ固有の分類に引き寄せてしまうことを強調した。
スキーマ
ある集団・ある民族に共通な、過去に蓄積された知識の集合。
新奇な情報を取り入れるとき、それを従来の見方・考え方に引き寄せてしまう働き。
台本=スクリプト
日常的に決まりきった行動や出来事の系列についての知識。
枠組み=フレーム
知識を利用した認知過程。
文脈効果
スキーマ、スクリプト、フレームのこと。
チョムスキー
チョムスキー(Chomsky, N.)
表面的な言語運用(performance)(具体的状況で実際に言語を用いること)を扱うのみでは不十分で、
その底に潜む言語能力(competence)(話し手-聞き手が自分の言語について知っていること)に
目を向けなくてはならないことを主張した。
文の間の統語関係を捉えるために、統語変形を導入するという、ゼリッヒS.ハリスの提案を発展させて、
変形生成文法を提唱した。
人間には、生得的に文法を発生させる装置、すなわち言語獲得装置が備わっているものと仮定した。
言語獲得装置
言語獲得装置(LAD, Language Acquisition Device)。
生得的に文法を発声させる装置。
聞いた会話分野発話の内容を文法に合った形式に変換する装置。
子どもは多くの大人の会話文にさらされているが、それらの文を羅列したまま暗記するのではなく、
生まれつき備わっているLADによって、聞いた会話文を内的に文法に合った形式に変換する。
LADが作動し始めるためには、言語獲得指示システムの働きも必要である。
言語獲得指示システム
言語獲得指示システム(LASS, Language Acquisition Support System)。
LADは、母と乳児との相互作用の中から、また乳児と環境とのやりとりを通じて、初めて働き出す。
このような言語獲得の前提となる母子の相互作用の形式を、ブルナーがこう呼んだ。
変形生成文法
変形生成文法(transformational generative grammar)。
文法は、書換え規則(あるいは句構造規則)と変形規則という2つの規則を持つ。
文の内部構造は記号が一列に配列しているのではなく、
いくつかの句と呼ばれる単位に別れ、その配列は左から右へではなく、上から下への階層的構造からなる。
言語は、表層構造(surface structure)と深層構造(deep structure)の2つのレベルで組織されており、
統合の深層レベルが表層レベルの基礎をなす。
深層構造は、意味に直結した抽象的な構造であり、これが表層構造へと変形され、現実の文が生成される。
人間の言葉は様々な語を組み合わせることにより、無限の文を想像することができるが、
このとき重要なのは深層構造から表層構造に変形する規則である。
この規則の集合、すなわち、文法のルール定義が、
生成文法(generative grammar)あるいは変形文法(transformational grammar)である。
命題
意味の基本単位。
これによって表現すれば、文の表現形式(能動形、受動形など)は違っても、その文のもつ意味を捉えることができる。
○最近の心理学・言語学で扱われている主な話題は、次の3点にまとめられる。
(1)言語獲得の問題:人間は生まれつき特別な言語知識を身に付けているのか。
それとも、人間は高度に知的な動物であるから言語を習得することができるのか。
(2)言語知識と言語使用との関係:言語を使用することと言語を知っていることとの関係はどのような関係にあるのか。
言語学者の提案する色々な文法は、本当に人間の頭の中にある文法を反映しているのか。
(3)言語の産生と理解:人間が言語を産生したり理解するとき、どのようなことが生じているのか。
左脳
左脳(left brain)。
脳の左の部分。右手や右足への触覚刺激や、右耳への聴覚刺激の殆んどは、まず左脳に入る。
視覚刺激に関しては、右目と左脳がつながっているのではなく、
右視野(視野の真正面から右側の部分)と左脳が結びついている。
右手や右足の運動の遂行は、左脳が支配している。
右脳
右脳(right brain)。左手や左足、それに左耳への刺激情報の殆んどは、まず右脳に入る。
視覚刺激に関しては、左目と右脳がつながっているのではなく、
左視野(視野の真正面から左側の部分)と右脳が結びついている。
左手や左足の運動の遂行は、右脳が支配している。
空間理解、空間構成能力に優れている。
脳梁
脳梁(corpus callosum)。右脳と左脳をつなぐ神経線維の束。
いったん右または左の脳に入った刺激情報は、脳梁を通って反対側の脳に伝えられる。
分離脳
分離脳(bisected brain)。
左右を結ぶ脳梁を切断する手術をした脳。
タキストスコープ法
分離脳患者において左右の脳の機能差を調べるのに最もよく用いられる方法。
患者が中央の一点を注視しているときに、右または左の視野に0.1秒だけ視覚刺激を提示することにより、
患者の脳の片側だけに情報を入れることを可能にする装置。
○言語機能は殆んどの人において(95%以上)左脳にのみ局在している。
○タキストスコープ法を用いて患者の視野の右側に文字刺激を提示すれば、
患者はもちろん用意にそれを命名することができる。
⇒刺激情報が言語野(language area)のある左脳に入り、その中で処理されたから。
○同じ刺激を左視野に提示すると、患者は何が提示されたのかを答えられないだけでなく、
刺激が提示されたという意識さえ持たない。
⇒右脳に入った情報が脳梁切断のため左脳に入ることができず、言語野では処理されないため。
○いくつか用意された見本物体の中から、提示されたものを左手を使って触覚的に選び出すということは、
分離脳患者にも可能である。
⇒右脳にもそれを可能にする程度には、僅かに言語機能が存在しているから。
○右脳は言語能力に乏しいものの、そこでも意識活動はあり、
左視野に出された刺激を正しく認識した反応をすることが可能である。
○患者は、自分の行った行為についてその理由づけをしており、
右脳だけが知っており、左脳は伺い知ることのできない理由について、
いわば場当たり的なこじつけをしている。
○右脳だけに強い情動を起こさせるような刺激を与えてみると、
右脳の捉えているものが何であるのかについて、左脳は知りえないが、
原因不明の感情状態については、左脳も正しく捉えることができる。
⇒感情状態が左右の脳につながりをもつ皮質下の脳部位により支えられているから。
○右脳の意識内容は、いわば無意識的意識、あるいは潜在的意識であり、
顕在化することはない。
右脳の働きの結果については、左脳はその真の原因を知ることはできず、
それを推測し、いわば強引にこの世の中を整合的に解釈しようとしている。
身振り言語
身振り言語(sign language)。
一般に、手まね・身振りなどのジェスチャーを用いた言語・指話法・手話などを指す。
ジェスチャー
ジェスチャー(gesture)。
発話に伴うジェスチャーは無意識に言語に伴って動作がとられるものであり、
語や文と異なり、全体の意味を決定した後に初めて各部分の意味を理解することができるもの。
音声言語の持つ言語学的な複雑さを引き継いでおり、文の部分であると考えられている。
自発的なジェスチャーは、思考しているときや話をしているときの心的過程を映し出すものとして、
話しことばそのものに次いで利用されてきた。
手話
聾唖者用に手を用いたコミュニケーション・システムとして、音声言語の変わりに用いられているジェスチャー。
○チンパンジーにアメリカ聾唖者身振り言語(American Sign Language; ASL)を教えた。
⇒この研究から、チンパンジーの言語は創造的なものであることが分かった。
○ASLは、それ自体の構造を持った独立した言語であると考えられている。
言語がそれを使用する人の住む社会によるコントロールを受けた産物であり道具である、という
人間のあらゆる話しことばがもつ重要な特徴を持っている。
この点で、ASLは自発的なジェスチャーとは全く対立するものである。
非言語的コミュニケーション行動
言語的コミュニケーション行動を補い、意志伝達の機能をしたから支えているばかりではなく、
ときには、言語によるコミュニケーションよりも重要な、そして効果的な情報を相手に伝え、
対人関係に影響を及ぼしている。
参考:重野 純(1994)『キーワードコレクション 心理学』新曜社(キーワードコレクション)
鹿取廣人・杉本敏夫(1996)『心理学』東京大学出版会
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