かごの中に座っている。 床は石でできていてひんやりとしている。 そう、このかごはただ被せられているだけ。 かごの外には石でできた壁がある。 円形なのだ。 正方形の窓が等間隔に並んでいる。 そこからどんな風景が見えるのか私は知らない。 座っているから。 誰かが入ってきた。かごの外。 ぼんやりとした目でこちらを見つめている。 私は気にせず手元のことに集中する。 「何をしているの?」 向こうが尋ねている。多分、私に。 私は答えない。見たらわかるし。 ぼんやりとしたまま窓の外を眺め始めた。 「ここ、どこ?」 向こうが尋ねている。また、私にかな。 私は答えない。見てないし。 振り返る。初めてかごを認識したようだった。 「どうしてそんなところにいるの?」 向こうが尋ねている。私にだわ。 私は答えない。別にいいかなって。 むしろ、別にいいじゃんって。 「出られないの?」 私は無言でかごの扉を指す。 扉の鍵は内側からかけるようになっている。 「どうして出ないの?」 私は立ち上がった。 「さあ」 私は言った。 先ほどの質問以外の全てに答えたつもり。 彼はぼんやりした目をちょっと丸くして、 眉をちょっぴり上げて、 首をほんの少し傾けた。 私はかごの中を久しぶりに歩く。 「いつか、出るかも。今は、出ない。 出る理由がない。 出たくなったら出る。 ここがどこか知らない。忘れたかも。 最近ずっと外見てないから。 私はここに座っているの。」 質問に答え終えてちょっと疲れる。 また座る。彼を見上げる。 彼は何かを考えているようだった。 それから、「そう」とだけ言った。 どれだけの時間が経っただろう。 外を見ていないし私はわからない。 彼は座ったり、立ったり、外を見たり、した。 私とちょっとおしゃべりをしたりも、した。 それから「じゃあ」と言って立ち上がった。 そして手をこちらに差し伸べて 「また」と言った。 私は、また、がいつなのかわからなかったけれど 手を差し出して握手をした。 彼は石の扉を開け、閉めた。 階段がちょっと見えた。 らせん階段のようだった。 私は疲れたのでつめたい石の床に体を横たえ 眠った。 |