木々の葉が揺れている。 家の戸口の前の階段が見える。 空を見上げれば薄青く、雲がぽっかりと白く浮かんでいる。 電柱はビラを貼り付けられたまま微動だにせず、 駐車場の車のフロントガラスが光を跳ね返す。 向こうから歩いてくる人に気づいた。 帽子を目深に被ってコートを着ている男性。 「この博物館はいったい…?」 僕は話しかけた。 「博物館だって?あぁそう見えるのかい」 男性は答えた。 そうか、博物館じゃなかった。 どれも現実でありのままで でも僕にはどれも陳列されたもののように ガラスケースに入ったもののように見えていたんだ。 「ちょっと話してみるかい」 男性はそう言った。 僕らは糸電話で話し始めた。 「どんな気分なんだい」 「辛くて怖くて仕方がないんだ。 でもなぜかはわからない。 何もかも同じなのに違うんだ。 僕なんていらない人間なんじゃないかって、 僕なんかどうしようもないって、 ずっとそればっかり。 誰の役にも立たないし、 むしろ邪魔だろう? なにもできず、なにも楽しめず、 不安におびえてばかりいるぐらいなら 消えてしまいたいんだ。 でも消えることはいけないことなんだって そう知っているから、どうにもできない。」 「悩むことはない。 休んでみたらどうだい。 何も急ぐことはないし、 あせることもない。 君は気づいていないかな。 君が今までどれだけの人と関わってきたか、 君がどれだけの人に大切に思われているか、 君が楽しくあってほしいとどれだけ望まれているか。 忘れちゃならんよ。 踏み切りの前。屋上の手すりの横。 ホームの上。台所の流しにもたれて。 机の引き出しを開けて。薬を手に。 決して忘れちゃならんよ。 僕にとっても君は大切なんだ。」 僕は気づけばベッドに横たわっていて ぼろぼろと涙を流しながら目を覚ましていた。 今はどうしていいかわからないけれど、 そんなものかもしれない。 まずは眠ろう。 |