○SSの引き出し

・神に睨まれた子 -X


その男性が彼を運んできたのは
幾日前のことだっただろう。

床に横たえると男性はこう言った。

彼はこれからここで休むこと。
彼の横には紙と鉛筆を置いておくこと。
それ以外はそっとしておくこと。

なんだ、たったそれだけ、と思った。

私は食事を運んだり、
シーツを伸ばしたり、
ときどき紙と鉛筆を取り替えたり、
ただそれだけをしていた。

そして、疲れれば
また戻ってかごの中で眠るだけ。

変わったことといえば
私がかごの外に出て
らせん階段を通り
彼の元へ行くという行為が
増えたことぐらいだろうか。

男性は本を読むらしい。
いつも行けば
椅子に腰掛け本を読んでおり
こちらに気づくと
柔らかな笑みを向ける。

どうやら彼も本を読んだようだ。
彼のメモに男性の本にあったのと
似たようなのを見つけることがある。

私はなぜか
そんなことはどうでもいいと思い
またかごの中へ戻る。

体を床にあずけ窓から射す光へ
手をのばしてみる。
つかめはしない。

そこに見えているのに
つかめないものもある。

彼はまだ眠っているようだ。

私もまた一眠り。






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