○SSの引き出し

・山奥の神社1


山奥。誰が来るわけでもない森の奥深く。

早朝。社の前を箒で掃く音が甲高く響く。
雀が通るのか鳴き声が響いた。

木々の葉の間から落ちる陽の光。
緑がかった黒、黒がかった緑と強い白のコントラスト。

水分の多い朝餉を用意し、
昨年から樽に入っている梅を一粒食べる。

茶の香りは鼻を通り頭に届く。
一息ついて内の掃除にかかる。

戸を掛けなくても人は来ない。
はたきを手にし、人形・ぬいぐるみを手にし、
一つ一つはたいていく。

すると隅に目を覚ましたその子が座っているようだ。

少し作業をゆっくりにし、
振り返らずにゆっくりした口調で
「おはようございます」と言う。

かすかにその子の口が動き、
「おはよう」と言う。

ゆっくり目を瞑った。

綺麗にはたきのかけられた鞠一つを手に
外へかけ出して行く。

ひーとつ。ひーとつ。

声に出しながら上に放り投げると日が高い。

ひーとつ。ひーとつ。

さっとひと吹き風が強く通り抜け、
すだれが持ち上がり、
そちらを向くとひとつの人形に光が当たっていた。

少し先と比べると肌寒い。
中へ入りウサギのぬいぐるみを胸にきゅっと抱きしめる。

ふるりと振り返り先程の人形を見つめる。
強く見返される。

ぬいぐるみを腕を伸ばして見直してみる。

そして片方の手に掴み、ぶら下げる格好になると、
ぱっと手を離し放った。

そして走り出し扉の奥へ入る。

……人が来た!






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