山奥。誰が来るわけでもない森の奥深く。 早朝。社の前を箒で掃く音が甲高く響く。 雀が通るのか鳴き声が響いた。 木々の葉の間から落ちる陽の光。 緑がかった黒、黒がかった緑と強い白のコントラスト。 水分の多い朝餉を用意し、 昨年から樽に入っている梅を一粒食べる。 茶の香りは鼻を通り頭に届く。 一息ついて内の掃除にかかる。 戸を掛けなくても人は来ない。 はたきを手にし、人形・ぬいぐるみを手にし、 一つ一つはたいていく。 すると隅に目を覚ましたその子が座っているようだ。 少し作業をゆっくりにし、 振り返らずにゆっくりした口調で 「おはようございます」と言う。 かすかにその子の口が動き、 「おはよう」と言う。 ゆっくり目を瞑った。 綺麗にはたきのかけられた鞠一つを手に 外へかけ出して行く。 ひーとつ。ひーとつ。 声に出しながら上に放り投げると日が高い。 ひーとつ。ひーとつ。 さっとひと吹き風が強く通り抜け、 すだれが持ち上がり、 そちらを向くとひとつの人形に光が当たっていた。 少し先と比べると肌寒い。 中へ入りウサギのぬいぐるみを胸にきゅっと抱きしめる。 ふるりと振り返り先程の人形を見つめる。 強く見返される。 ぬいぐるみを腕を伸ばして見直してみる。 そして片方の手に掴み、ぶら下げる格好になると、 ぱっと手を離し放った。 そして走り出し扉の奥へ入る。 ……人が来た! |