○SSの引き出し

・カラスと私の第1月曜


朝。ごみ出しの時間。

「う〜んもぉ眠いなぁ。」

ちょっと手をのばして時計を見たところ、
ごみ収集車が来るまで後30分少々といったところだった。

「カフェオレよーし。トーストよーし。」

さっと中くらいのごみ袋に全てのごみ箱の中身を移し、
きゅっと縛る。

手を洗い顔を洗い髪をゴムでまとめピンで上げる。
ここまで5分。

「おーけー。いざ出陣。」

サンダルを履いて外へ出ると思ったより陽差しが強くて
くらくらした。

「うぅ目が日焼けしそう…」
そんなことを思いながら階段を下りる。

下りながら今日の玉子はオムレットにしようか
スクランブルエッグにしようか考える。

「どっちがいいかなぁ〜。」

で、スーパーの白いビニール袋の方が
黒いごみ袋より多ければオムレットにすることにする。

はたしてごみステーションに着いてみると…。

黒、1、2、3、4、…5。
白、1、2、3、4…。

「今日はスクランブルエッグか。」

くる。…ぴた。

…「え?動いた?今ごみ袋動いた?!」

やっと気づいた。
メガネもコンタクトレンズも忘れている…。

とてとてとて。くる。ぴた。

よく見てみれば動いたそれはカラスだった。

緑のネットがずれているところを見ると
ゴミを漁っていたらしい。

よっぽど叱ろうかと思ったが、
奴は今道路の反対側に居る。

しかも向こうを向いて。
我関せずのポーズらしい。

「ちょっとお。今日、管理人、月1の休みなんだけど。
 誰が片付けるって言うのよお。」

ちら、とカラスを見遣る。

話を聞いていたにも関わらず目があった途端
奴はその目をそらした。

あくまで自分は関係ないつもりらしい。

「まったくもう…。」

文句を言いながらごみステーション備え付けの
ちりとりセットで片付ける。

自分の分のごみも出し終え、
カラスの方へ向き直ると
「二度としたら承知しないからねっ。」と
小さめの声で、しかし強くはっきりと
懇々と言い含めるように伝えて家へ向かう。

階段への扉の方へ一歩二歩三歩。

とてとてとて。

ものすごい勢いでぐるりと振り返ると
奴は急いでちょっと羽ばたいて方向転換をした。

…ぴた。

どう考えてもバレバレだ。

先程よりごみに近づいてるし第一慌てすぎなのだ。

まだ知らない振りのカラスの元へ近づき
しゃがみ込んで言った。

「あのね、どう考えたって君でしょうに。
 しかもねぇ、私はごみ袋の黒と白どっちが多いかで
 今朝の卵料理を何にしようか決めようと思ってたの。
 君が黒いから一瞬間違えちゃったじゃない。
 どうしてくれるのよぉ。」

どうもこうもない、という目でカラスがこちらを見る。

「何よ、自分が話しかけられてるの分かってるんじゃない。
 さっきまでずっと無視してたくせに。」

カラスは聞いているのかいないのか
ごみステーションに再び向かう。

「開き直り〜?まだやるの〜?」

カラスはくちばしでごみ袋を1回ずつ突つく。

黒、1、2、3、4、5。
白、1、2、3、4。

「あ、そっか。
 自分の持って来たのも入れて、やっぱりスクランブルエッグか。」

わかった?という目でこちらを見るカラス。

「仕方がないなぁ。今日だけだからね。」

カラスはベランダ側に飛んでいったらしい。

「今日のスクランブルエッグは薄味にしなきゃなぁ。」

階段を上りながら思った。






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