どんなに暑い日だって、どれだけ寒い時だって、 よく晴れた朝が来れば、起きねばなるまい。 昨日の雪で空は水彩絵の具を溶かしたように塗れていて、 山、坂道から眺めると、太陽の光は 遠く眩しい蛍光灯のように下界を端から照らしている。 陽に感謝して寒気を胸に取り込み、 すっかり気分すっきりで靴を履く。 大きめのカバンには様々雑多なものが詰まっているが 確かめるのは 定期・財布・携帯・お弁当、これだけで良い。 今日の一日を始める際にスケジュール確認は要らない。 ただ場所・時という空間を過ごすのに余計なものは邪魔になる。 携帯なども本当は置いて行ってもいいぐらいだ。 ただ連絡というものも時にある。 いかんせん急に過ぎる傾斜を下れば 張り出した家の全面ガラス張り部屋、きっとリビング、から 鳴き声が聞こえる。 通りかかるのを待ち望んでいてくれた分、 小さな体で飛び跳ね走り回り迎えてくれる。 大きく背伸びをし、こちらも手を振り返す。 ぶんぶん、ぴょんぴょん。 こちらでピンク、あちらでブラウンが 同時にうれしさをぴょこぴょこと跳ね表し合っている午前の時間、 陽の当たる場があるだなんて誰が想うだろう。 さんざん跳ねながら歩き続け、 部屋の角、カーテンに遮られながらジャンプする君。 バイバイ、というと一瞬止まるようになってきた君。 そろそろ覚えてきたのかもしれない。 それは バイバイがお別れ、会えなくなるということではなくて、 今日もどこかへ出かけて行き、 ぽっかりとした空間を過ぎて、 星のちらちら瞬く夜を越え、 明日また楽しみに待ち、合うのだということを。 先を先を見ていこうとしても先へ先へ進んで行こうとしても、 いきおい覆い不可視のトンネルに入り込むよう。 ちょっと先の幸せ、楽しみが嬉しさ、喜びを運んでくる。 今からだって この素敵に輝いた今日の昼をどう過ごそうかと、 どこに行こうか、誰に会おうと、何に遭えるか、なんて 脳内に信号を巡らせながら 気ままに足はそのときへ向かって歩を進めている。 ざわざわうっそうと暗いような姿を黒く落とす木々は 陽のプリズムの強調効果。 あずき色の電車。紺色の制服。グレーのスーツ。 紫のジャンパー。肌色のバス。赤いリュック。 陽はこの時に至りもはや空、角度いま少し高く射して。 工事の音も横からさざめきながら自転車立ち漕ぎもすり抜ける。 何も知らないような何か知っているような、 でも何でもない慣れた風をして忍び込む校舎。 幾度来ても新鮮なのはそこが毎日同じ顔を見せるから。 こちらも毎日同じ何くわぬ顔をして見せる。 どこからか聞こえるざわめきも音楽を耳にかけてシャットアウト。 人が来れば、ほらもう今日の今の現実のリアルが ピンクとブラウンの朝をかき消し上塗り始まった! |