食後、お茶を淹れる間、 こちらを見るでもなく不思議なお姉さんが言った。 「おばあさんおばあさん、どうしてそんなにお耳が大きいの?」 「それはね、お前の声がよく聞こえるようにだよ」 赤ずきんのお話を始めたらしい。 それも前半は抜きにして赤ずきんとオオカミの会話からだ。 少年はお姉さんのコップと自分のコップにお茶を注ぎ、続きを待った。 「おばあさんおばあさん、どうしてそんなに目が大きいの?」 「それはね、お前の姿がよく見えるようにだよ」 オオカミの目ってそんなに大きかったっけ、と少年は思った。 お姉さんは続ける。 「おばあさんおばあさん、どうしてそんなにお鼻が黒いの?」 「それは…なんでやろ」 少年は口元まで持ってきていたコップをそっとテーブルに戻し、 ぷふぅっと息を吐いた。 今日も物語は唐突に動き出し、 行き先を淡々と見守る少年を 不思議な展開で楽しませるお姉さんがいる。 ちなみに、そのお姉さんによると寝物語の桃太郎は たいてい猿と犬と雉の登場順番などで内容が狂うそうだ。 道理で、お話がよく分からなくなるわけだ。 |