こちらを見るでもなく 不思議なお姉さんが言った。 「鏡よ、鏡よ、鏡さん、世界で一番美しいのはだあれ? 「それは、山奥で小人たちと暮らす白雪姫です」 白雪姫のお話を始めたらしい。 それも前置きは省略して鏡と王妃の会話からだ。 少年はお姉さんのカップと自分のカップにコーヒーを注ぎ、 続きを待った。 「リンゴは、いかがかえ?おいしい、おいしい、リンゴだよ」 「まあ美味しそうなリンゴ!でも、うち、小人たちがうるさくって」 そんな箱入り娘みたいな話だったっけ、と少年は思った。 お姉さんは続ける。 「半分をあんたにあげよう、もう半分をあたしが食べるからね」 「うっ…ぐはあ!」 「おばあさんは、リンゴを喉に詰まらせてしまったのでした」 「おしまい」 少年は口元まで持ってきていたカップをそっとテーブルに戻し、 ぷふぅっと息を吐いた。 今日も物語は唐突に動き出し、 行方を淡々と見守る少年を おかしな展開で楽しませるお姉さんがいる。 ちなみに、そのお姉さんによると物語の一寸法師は たいてい最後の3つのお願いが何だったかなどで内容が狂うそうだ。 道理で、お話がよく分からなくなるわけだ。 |