○SSの引き出し

・カラダめあて


彼は私の体だけが目当てなの。

だから、いつだって、向き合っても、
彼の視線は、彼の目から地球へと、
斜め下へおりてゆく。

つやつやの髪。
つるっとしたおでこに、
ぷるぷるのほっぺ。

すっと切れるように伸びた目じりは、
アイラインがきゅっとつり上がり。

薄桃の柔らかそうな唇は、
端で微笑を描く。

彼の指が、私の髪をよける。

あらわになった首筋は、
吸い付きたくなるほどの白さを呈す。
まぶしすぎるうなじ。

華奢な肩に指を滑らせると、
下着をつけていない私はこころもち震えるかのように。

柔らかなふくらみを過ぎれば、
手首もくびれも細すぎてやわすぎて。

細く長く伸びた脚は、
また、きゅっとしまった足首と、
立つには小さすぎる足で終わる。

そう、私の体は完璧。

だから、いつだって、何を着てても、
彼のご所望は、前の服から次の服へと、
短い間隔で着替えてゆく。

女子高生の制服。
セーラーもブレザーも体験済み。
スクール水着だって着たわ。

病院の制服といえば、
女医の白衣も、ナースの白衣も
どちらだって似合った。

コスプレ、なんて云うと可笑しいけれど、
猫にだってなったし、
豹にだってなった。

何かのキャラクターを真似たり、
包帯を巻いたりだってしたし。

スポーツウェアだって色々試したし、
もちろんメイド服だって忘れてない。

そう、私の体は理想的。

彼は、誰かに、
この無機質な、からっぽの、ところが、いいんだよ、
なんて云っていたけど。

だから、それって、私の心なんて要らないんでしょ?
別に私じゃなくたって、完璧な理想的な誰かなら良かったんでしょ、
と思う。

いや、違う、彼女じゃないとダメなんだ、
他の誰かなんて考えられない、
なんて云っていたけど。

だけど、だけど、私の心なんて、どこにも、ない。

彼の見る私の心は、彼の夢見る、誰かの心。
それは、きっと、どこにも、ない。

彼のいない部屋で、私はそっと溜息をつく。
直立不動で、ポーズを決めたまま、まばたきもなしに虚空を見つめて、
暗闇の中、パソコンのディスプレイの光だけを受けて、反射する、瞳。

…彼は私の体だけが目当てなの。






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