「綺麗な髪だね。」 そう彼は言った。 本当に驚いたように。 彼の目はいつも正直だったし、 私はそんな彼がするたくさんの表情の一つ一つを ファイルしておきたいと思うほど、 彼のことが好きだった。 「触ってもいい?」 今度は私がちょっと驚いた。 「どうぞ。」 そっとそっと手を触れさせる君。 風が吹いて、髪がなびく。 彼はまた何かはっと気づいたような顔をした。 「すごく綺麗な髪だね。」 彼がまた言った。 「羨ましいの?」 今度は私が尋ねてみた。 「うん、僕のはそんなじゃない。」 彼の髪は綺麗な色をしていた。 あったかい陽射しが差し込むお店の ミルクティーみたいな気分になれる色。 「私は、好きなのにな。」 ちょっと手を伸ばしてみる。 風はそんなに強くない。 彼の髪はやわらかく私の手に触れた。 「何かあったかいものでも飲む?」 彼が言った。 「うん。」 ちょうどそうしたいな、と思っていた。 風はそんなに強くはないけど、 ずっとあたっているとやっぱり冷たい。 「ミルクティーが良いかな。」 彼がつぶやく。 「そうだね。」 即答した。なんだか嬉しかった。 彼が腰を上げ、彼の顔が見えなくなる。 私もあわてて立ち上がった。 あれ?私は思った。 なんでミルクティーなんだろう。 もしかして、わかっちゃってたのかな? ちょっと前、 手を伸ばして届くか届かないかのところを 歩く君。 「ねぇねぇ。」 私が声をかけるのと、彼が振り向くのと、 おんなじタイミングだった。 そう、いつも君は遅れがちになる私を 君が見えなくなると泣き出しそうな私を そうやって支えつづけてくれた。 「ん?」 差し出された君の手。 私は今度はあわてずに、彼の手に手を伸ばした。 その手を握る。優しい手。 「何?」 「ううん。」 今日はお天気が良いから、あのテラスに座ろう。 君を向かいに、明るい陽射しを空に、あたたかな紅茶を手の内に。 |