爺ちゃんは僕の一番尊敬する漁師やった。 父ちゃんも漁師やったけど、僕にとっては、 爺ちゃんの方が数倍かっこええ漁師やった。 僕も爺ちゃんみたいになりたかったけど、もう僕はなられへん。 あるとき、僕が算数で赤点取って泣いてもうたことがあった。 「赤点とってもうた」 「そうか」 「先生も母ちゃんもちゃんと勉強せな ええ仕事に就かれへん、て言う」 「お前はどんなことして食うていきたいんや」 「僕、漁師がええ。 爺ちゃんみたいに、でっかい魚をいっぱい捕るんや」 「そうか。 よし、爺ちゃんが漁師にならしたろ。 けどな、よう覚えとけ。 漁師は男や。 男は泣かん。 お前も一人前の漁師になりたかったら、泣くんやない」 それからというもの、 僕は爺ちゃんについて海に出るようになった。 爺ちゃんはようけ魚のことを教えてくれた。 爺ちゃんは名人や。 あれは今年に入ってからのことやった。 いっつも買うてくれる魚屋さんがもう買えまへん、て言いに来た。 「なんでや、おっちゃん。 なんで買うてくれへんのや」 「すまんな。 今はもう日本の魚は高うて売れへんのや。 外国のが安うなっとってな」 「そんなんおかしいわ。 爺ちゃんの捕る魚が一番やのに」 その頃から、爺ちゃんはだんだん漁に出えへんようになった。 そうして、だんだん家におることが多なって、 だんだん爺ちゃんは病気になってった。 父ちゃんは町へ働きに出るようになった。 母ちゃんは勉強せえ、ばっかり言う。 今朝、爺ちゃんは起きてこおへんかった。 僕は泣いて泣いて泣いてしもた。 僕はもう、 爺ちゃんみたいな漁師にはなられへん。 |